皮膚に浸潤し潰瘍を形成する進行癌の局所は、独特の悪臭を伴い、患者のQOLを下げる要因のひとつとなっている。本研究では、癌性悪臭の消臭手段を講じるべく、この匂い物質の同定を目指した。まず、悪臭を放つ乳癌・頭頸部癌の患部にあてられたガーゼからSPME(固相マイクロ抽出法)を用いて匂いを捕集した。次に、SPMEを匂い嗅ぎガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS-O)に供し、この悪臭の原因物質の同定を試みた。GC-MS-O分析の結果、乳癌・頭頸部癌ともに同じ保持時間に、癌患部の悪臭を体現する硫黄様の強い悪臭を感じた。MS分析の結果、この物質はジメチルトリスルフィド(DMTS)であることが明らかになった。DMTSは、いわゆる“たくあん臭”“強いたまねぎ臭”とも表現でき、キャベツなどの野菜の過熱臭、微生物の代謝産物として知られる。今後、この匂いの発生源を特定することによって、癌患部からのDMTSの発生を制御することができると期待される。
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