ABCA1は、高密度リポタンパク質(HDL、善玉コレステロール)産生に必須な膜タンパク質である。ABCA1はATP加水分解依存的にコレステロールをアポリポタンパク質A-I(apoA-I)に供給することでHDL産生の初期段階を担うが、その機構には不明な点が多い。本研究では、apoA-IとABCA1の相互作用およびapoA-IによるABCA1の挙動変化を、1分子可視化により調べた。蛍光標識したABCA1をHeLa細胞の細胞膜に発現させ、1分子蛍光観察した結果、以下が明らかになった。1) apoA-I非存在下では、野生型分子は約7割が静止し、3割が拡散運動をするが、 ATP加水分解活性をもたない変異型分子は約2割が静止し、8割が拡散運動をする; 2) 培地への apoA-I 添加後、野生型分子の易動性が上昇し、10-15分で変異型分子と同様の運動性を示すようになる; 3) 蛍光標識したapoA-I分子は野生型分子と共局在する。すなわち、apoA-I非存在下では、コレステロールやアクチン細胞骨格の関わる何らかの機構がABCA1分子の運動性を抑制しており、apoA-I添加後のHDL産生の初期段階では、その抑制が解除されることが示唆された。
|